2006年06月13日

Musique Hall 2003レポート


甘美とアバンギャルドが融合

 たるませた布の一群が舞台で滑らかな弧を描く。重力の作る、単純だが完ぺきな美しさに目を奪われていると、コシが、かれんでセクシーな衣装で登場。アコーディオンを抱えつつ、ささやくように歌う。曲によっては、バレリーナらと共に軽やかに踊る。
 心地よい揺れを誘うワルツや、胸弾ませるスイング。ヒップホップに象徴される強く激しいリズムがはやる日本の音楽界では、耳にする機会の少なくなった繊細で優雅な曲が次々と流れる。パリの古いミュージック・ホールにいるかのような錯覚に陥った。
 選曲の軸は、三月に出した新作アルバム「コルセット」の収録曲。さらに、「聞かせてよ、愛の言葉を」や「ムーラン・ルージュの歌」などシャンソンの代表曲を加えた。
 演出は甘美なだけではない。「ピカルディーのバラ」では、いすの上に立ち、背もたれに足をかけるとそのまま倒れた。危険な行為をほほえみながらこなす。「ミロワール」では、バレリーナらが縄などを用いて隠微なエロスを醸し出す。よく練られたエンターテインメントであり、アバンギャルドでもある。その融合に幻惑された。
 一九七八年にデビュー後、テクノなどを経てたどり着いた独自の境地。戦前の古い音楽や映画に触発されながら構築する音世界は、フランス人よりもフランス的だ。演出はもちろん、衣装や装置、小道具に至るまで美意識が行き届いている。
こんな舞台に、二十一世紀の東京で触れることができたことを、うれしく思う。
 
 大野 宏 
−四日、東京・世田谷パブリックシアター 

読売新聞 夕刊 2003年3月17日(月曜日)付
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